搬入作業は夜中に行われる。
夜の11時45分に集合。
まずは簡単な段取りの説明が行われた。
日本側は舞台監督さんや大道具さん等、計20人弱。
台湾側のほうも、台湾側の舞台監督さんがいて、その下に10数人のスタッフ。
他に劇場関係者や台湾側のマネージメント会社の人、それから他の通訳さんなど。
全部合わせると50人くらいいるのだろうか。
普段は社内の通訳ばかりで、こういう場での通訳は初めて。
とりあえず、持ち場である搬入口で待機するものの、いったいどこで何を通訳すればよいのやら。
台湾人スタッフと日本人スタッフが入り乱れ、荷物を運びながら目まぐるしく動いている。
誰に付いていけばよいかも分からない。そもそも日本人はどこだよ?どっちもTシャツとか作業着とかなので、分かりづらい。
そのうち、帽子や雰囲気で区別できるようになったけど。
あっちの方で何か話ししているなと思って行こうとすると、後ろから「○○さん!こっち来て!」と呼ぶ声が。
台湾側のマネージメント会社の人だ。
この人は日本語ペラペラで、舞台用語などもすごく詳しい。
日本側スタッフも、ついついその人に聞こうとするものだから、その度に「あ、通訳さんはあちらですから」と私をの方を向く。
頼りない通訳さんで申し訳ありません。トホホ...
でもまあ、そのうち顔も覚えてもらえたみたいで、だんだん溶け込めてきた。
作業は大きく分けて、舞台の外と中になる。
まず、外に停めてあるコンテナトラックから荷物を通路に運び入れる。
一時的に通路に置く場合もあるし、直接舞台の「せり」まで運ぶものもある。
それらの指示を、台湾スタッフに行う。
舞台の「せり」はエレベータみたいに1Fと地下(というかグランドフロア)を往復するのだけれど、想像以上にでかい。
いままでは、単に演者ひとりが上がってくるくらいのイメージでいたんだけど、実際には舞台全体が上り下りするんですね。その中でもまた小さいエリアが個別に昇降できるようになっているようだ。
ある程度の荷物を「せり」に入れたら、入り口のドアを閉めて「せり」を上げる。
「せり」が完全に上がると、そこが舞台となる。前に観客席がある。
舞台の左右や後方にスペースがあるので、今度は荷物をそれらのスペースに仮置きする。
ここでも、日本側の担当者のそばにくっついて、台湾人スタッフへどこへ何を置くかの指示を行うのが私の役目。
ちなみに「せり」は"昇降台"と訳すようだ。
今回はむちゃくちゃ専門的な用語はそれほど無かったのだけれど、なにぶん環境に慣れていないので、簡単なことばが訳せなかった。
例えば日本人スタッフが「こっち立てま~す!」と言う。
でも、「こっち」ってどっち?「立てる」って何をどう立てるの?
と思わず固まってしまった。
あと、「せりを下ろします。シャッターを閉めさせて下さい!」
シャッターって何?
いや、シャッターは知ってるけど、この場面でシャッターって何?
と思っていたら、本当に「せり」の周囲にシャッターが下りてきた。
どうやら安全のために、「せり」を昇降させる時には周囲にシャッターを閉めることになっているようだ。
実際のところ、台湾側スタッフも段取りをよく承知していて、こちらが訳すまでもなく、次はどうするかというのが分かっているようだ。
とはいえ、特に安全の面から、通訳が気を抜いてはいけないのだけれど。
結局、この日の搬入作業は朝の4時過ぎに一段落ついた。
舞台上では照明さんの作業が続いていたけれど、通訳は一人残れば良いとのことで、他の人にまかせ、解放されることになった。
最初は目まぐるしくて、まさに目が回りそうだったけど、時間が経つにつれて落ち着いて見れるようになっていった。
初めは誰が誰なのか分からなかったのも、あの人が舞監さん、あの人が劇場の課長さん、みたいに分かってくると、ひとつの公演でほんとに色んな人が関わっているんだなと思えてきた。
もちろん、この日のスタッフ以外にも衣装さんやら小道具さんやら音声さんやら、色んな人がいて、それぞれの役割を果たしている。
そういう、皆で作り上げていく公演の、ほんの少しでもお役に立てたのであれば幸いである。